社内承継と借入の連帯保証について
2019.07.22
■社内承継と借入の連帯保証について
M&Aとは、単純に別企業同士の企業売買のことを指すわけではありません。社長の子息に会社を継がせる場合や、社員に会社を継いでもらうケースも広義のM&Aに該当します。今回は、社内承継に対する考察と、その際の金融機関借入に関する連帯保証について考えていきます。
■同族承継もひとつのM&A
中小企業の中には、創業家の親族が社員として働いており、社長の引退後に家族が後を継ぐケースは少なくありません。もともと働いている場合には、従業員への納得性が得られやすいなどのメリットがあります。一方で、後継者の能力が従業員に認められていない場合には、従業員が不満を抱く原因にもなることから、経営者としては跡継ぎ候補の親族が後継者としてふさわしいかの見極めをしなければなりません。
■社内承継のメリットと課題
経営者の親族ではない社員が次期社長になるケースもあります。社内承継の場合は、同族承継と同様に、他の従業員が不満を抱くケースが少ないという点で、メリットがあると言えます。また、実務に従事していた社員が社長になる場合、現場に対する理解がある人物が社長になることで、経営と現場との意思疎通がスムーズにいくというメリットもあります。
一方で、社内承継の場合には、クリアしなければならない課題も存在します。まず課題として挙がるのが新代表者の経営能力です。企業の後継者に選ばれることからも、恐らく新代表者は実務スキルが高く、他の従業員からの信頼もあるのでしょうが、経営能力となると話は別です。企業の代表者として適切な判断を下し、会社を導く能力があるのかという点は、同族承継にも言えることですが、課題として認識しなければなりません。経営者になるということは、その企業で働く従業員だけでなく、従業員の家族の生活もかかってきます。50人の従業員がいた場合、平均4人家族として200人の生活の面倒を見なければならないということです。その覚悟を持てる社員がどれだけいるのでしょうか。社内承継をさせる場合には、事前にそのあたりも話し合っておく必要があるでしょう。
次に課題として挙がるのが株の承継です。一般的に考えて、これまで堅実に事業を経営してきた企業の場合、収益の累積により株価が高額になっており、後継者の給与所得で買い取れるケースはまれで、ほとんどの場合買取りが出来ないという課題が存在します。そういった場合、やむなく現経営者が株を所有し続ける形をとることになります。いわゆる所有と経営の分離を選択せざるを得ないという結果です。その場合の問題点は、金融機関借入に対する保証です。金融機関としてみれば、最終的な企業の実権者が株主である以上、株主として企業に関わる現経営者の保証を外すことは、貸付金の回収リスクを高めることになることから、なかなか応じてくれないことが考えられます。たとえ新代表者の保証を徴求したとしても、代表者の解任権を持っている現経営者の保証を外せないのは、確かにリスク管理上理にかなっていることです。また、新代表者の保証能力の観点は一般的に現経営者に劣ることからも、「代表が変わったから保証人も変更しましょう」と単純に事が運ばないのは理解できます。しかし、現経営者からすれば、新代表者に経営権を譲り、自分は経営に携わっていないにもかかわらず、経営のリスクである借入の保証責任は負わなければならないという状況は、なかなか受け入れがたいものがあります。
■金融機関の対応
「事業承継の際の保証人について、金融機関はどのような対応をすべきか」という点については、一般社団法人全国銀行協会(いわゆる全銀協)から「経営者保証に関するガイドライン」という文書が示されております。要点をまとめると
①基本的に新代表者の保証は徴求する。
②金融機関は丁寧な説明をする等、誠実に対応しなければならない。
③優良企業であれば、新代表者の保証を取らないことも可能
④前経営者の保証解除については、以下を踏まえ適切に判断することとする。
【前経営者が引き続き実質的な経営権・支配権を有しているか】
【前代表者の保証以外で、債権保全が図れるか】
【法人の資産・収益力による借入返済能力】
という記載になっています。
これだけを見ると、前代表者の保証を解除することはあまり簡単ではないように感じます。しかし、企業は1社ごとに内容が違っており、取引金融機関の姿勢もそれぞれ異なります。どうせ無理だろうと諦める前に、M&Aの専門家を含めた相談を行うべきでしょう。
それぞれの当事者にとって、良い結果となるM&Aに導くために、様々な視点からM&Aを見つめていくことが必要です。経営者の方は、ご自身の考えをまとめようとする前に、まずご相談いただくことが良いと考えます。