保育業界におけるスモールM&Aの現状と注意点
2019.01.16
所得低下などを背景に共働き世帯は増加しており、人口の減少トレンドとは逆に、保育施設のニーズは高まっています。地域差はあるものの、一時メディアにも盛んに取り上げられていた待機児童問題も、いまだ根強く残っているのが現状です。行政もこの状況に対し、認可保育園の募集や、企業主導型保育事業(認可外保育園への助成制度)などを打ち出していますが、施設の充実まではもう少し時間がかかりそうです。実際に、内閣府が主体となっている平成30年度の「企業主導型保育事業」については、当初11月には助成決定通知が発行される予定だったものが、1月半ばになっても助成決定がされていない状況にあるなど、行政側にも問題があるようです。
一方で、施設運営側でも大きな問題を抱えています。それは「後継者がいない」という事業承継問題です。規制緩和により、民間の株式会社が保育業界に参入出来るようになったのは、今から約20年前の2000年のことですが、2018年における調査によれば、運営会社のうち株式会社が占める割合は4%程度に留まっており、その参入障壁は高いと言わざるを得ません。当然、参入障壁が高い業界で起こるのが企業内外における新陳代謝不足の問題、要は世代交代が適正に行われないという事象です。つまり、保育業界における事業承継問題は起こるべくして起こった事象と言えるわけです。
ニーズが高まっている上に、事業承継の問題が顕在化している保育業界にとって、M&Aは最適なソリューションのひとつになっています。しかし、大規模な保育施設を展開している企業において、事業承継問題は解決済みのケースが多く、上記の問題を抱えている企業のほとんどは小規模~中規模の中小企業になっています。いわゆるスモールM&Aサイズの取引です。弊社HPでもご紹介しているように、大手M&A仲介会社を中心に、多くの企業では「最低報酬額」というものが決められており、これらが保育業界におけるM&A進行を妨げている要因になっています。
保育所の運営を行う場合、親に「自分の子どもを預ける」というハードルを越えてもらう必要があります。その為、新設法人ではその信頼を勝ち取れず、園児募集に課題を残すケースがあります。そういった観点からも、スモールM&Aを活用した保育業界への参入は、既存の園児・近隣住民からの認知などもあり、非常に有意義なものになるでしょう。
逆に、注意しなければならない点もあります。保育所のスモールM&Aにおいて、見るべきポイントは「地域の特性が活かされているか」、「快適な保育環境が保たれているか」、「施設の安全管理に問題はないか」、「保護者のニーズに合わせ柔軟な保育体制が取れているか」など多くありますが、ここでは、M&Aを行うにあたって特に注意すべき点を3つ挙げていきたいと思います。1つは適法性です。当然ですが、適法に事業を運営できているかどうか、という点になります。例えば、園児1名あたりの保育士割合や、園児の定員数、企業の役員構成など、さまざまな項目をクリアする必要があります。せっかくスモールM&Aを活用し、保育事業をスタートさせようにも適法性が具備されていないケースでは、事業運営が出来ません。2つ目は、保育士・園児の確保です。園児もさることながら、保育園の運営に保育士は不可欠です。上記の適法性にも関係してきますが、M&A実施後も規定の保育士数が確保できるかどうかは、非常に大きなポイントになります。3つ目は近隣住民との関係性です。保育施設の設置に際し、近隣住民の協力は不可欠と言っても良いでしょう。ケースによっては過去の近隣トラブルを抱えている場合もある為、慎重に確認しておくことが良いでしょう。
いかがでしたでしょうか。保育業界のM&Aは注目が集まっている反面、注意しなければならない点が多くあります。諸条件や上記のポイントなどについて、M&Aの専門家と一緒に考えていくことをお勧めいたします。